決定版 三島由紀夫全集について

決定版 三島由紀夫全集について

平成12年(2000年)、新潮社から刊行が始まった「決定版 三島由紀夫全集」は、戦後文学を代表する作家・三島由紀夫の全作品を網羅する大規模な出版企画でした。それまでにも全集は存在しましたが、この「決定版」はまさに集大成と言える内容で、三島由紀夫の小説・戯曲・評論・随筆・書簡・講演・対談・日記・未発表原稿に至るまで、実に充実した内容を誇っています。全42巻(別巻2を含む)という膨大なボリュームは、まさに作家の人生と精神をたどる旅路のようなものです。

この全集が画期的だったのは、収録作品の網羅性だけでなく、校訂や解説の精緻さにもあります。新潮社が長年にわたって蓄積してきた資料と、三島の遺族・関係者の協力を得て、テキストの正確性を徹底的に追求した結果、読者にとって信頼できる決定的な全集となったのです。また、各巻末には詳細な年譜や解題、参考文献が収められており、研究者にとっても極めて有用な資料集となっています。

私はこの全集が刊行されるというニュースを知ったとき、非常に嬉しい気持ちになりました。というのも、学生のころ、図書館で見つけた古い三島由紀夫全集に触れたことがきっかけで、彼の作品に魅了されていったからです。あの独特の文体、美意識、死と生への鋭い感性に惹かれ、何度も本を借りては読みふけった記憶があります。けれども、その古い全集はすでに絶版で、なかなか手に入れることができず、いつか自分で全集を揃えたいという思いがずっと心の奥にありました。

そんな折、新潮社からこの「決定版全集」の刊行が始まると知り、私は迷わず第1巻を購入しました。予約注文をし、月に1冊手に取る、という日々が続きました。購入するたびに胸の中に湧き上がる満足感は、まるで自分の中に三島由紀夫という巨大な精神を少しずつ迎え入れているような、そんな感覚でした。

しかし、現実はそう甘くはありません。生活の中で予期せぬ出費が重なったとき、全集を買い続けることが厳しくなり、「いっそ途中まで集めたこの全集を古本屋に持っていこうか」と考えたこともありました。その厚さと重さを手に取るたび、「こんなものを持っていてどうするんだろう」と自問する日もありました。それでも、どうしても手放せなかったのは、あの本たちに宿る重厚な文学の力に引き寄せられていたからだと思います。

結局、私は全集を手放すことなく、今でも本棚の一角に並べて大切に保管しています。きれいに並んだ背表紙を眺めていると、これまでの自分の人生の一部がそこに積み重なっているようで、少しだけ誇らしい気持ちになります。そして最近では、ふとしたときに「仕事を引退したら、今度こそ時間をかけて全集をじっくり読み返してみたい」と思うようになりました。若い頃には見えなかったものが、年齢を重ねた今ならきっと見えてくるはずだと、そう感じています。

「決定版 三島由紀夫全集」は、単なる文学作品の集まりではありません。それは一人の作家の生涯と思想、そして時代の空気をまるごと詰め込んだ文化的遺産とも言える存在です。この全集に出会えたことは、私にとってまさに幸運でした。これからも、折にふれてページを開き、三島由紀夫という作家の言葉に耳を傾けていきたいと思っています。

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